Niels Vink:「夢をかなえた」

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公開日 2023年02月06日

グランドスラムの準優勝者は、しばしばトロフィー授与式で落胆した表情を見せます。準優勝者にとっては負けた直後のイベントとなるため、仕方もありません。ニールス・フィンクも全豪オープン車いすのクァード決勝戦で敗れた後、落胆を隠せずにいました。しかし、彼は前日に生涯ゴールデンスラムを達成していたのです。

オランダ人選手で、破格の強さで知られるダブルスのパートナー、サム・シュレーダーに6-2 7-5で負けたばかりで、20歳のニールスのリアクションが彼自身をよく物語っていました。試合終了から1時間経っても涙で目を潤ませながら、彼は言います。「負けても構わない。でも、今日のような酷いプレーはなくしていかないといけない。 」
 

彼の普段のパフォーマンスからすると良くはありませんでしたが、決してひどいものではありませんでした。 確かに、第1セットでは相手に5ゲーム先取を許し、続く第2セットでは5-3のリードを無駄にしてしまっていました。高い基準を自分自身に課しているため、彼は悲嘆に暮れていたのです。

生命を脅かす感染症

2002年12月にオランダのヘルモンドで生まれたニールスは、生後2年未満で「髄膜炎菌性敗血症」という細菌感染症に罹患しました。幸い一命を取り留めましたが、両足と手の小さな骨をいくつか失ってしまいました。

9歳の時、母親に連れられてロンドンパラリンピックを観戦し、障害者スポーツの魅力に引き込まれました。いくつかのパラリンピック競技に挑戦した結果、ニールスはテニスを選びました。「すぐに夢中になりました。1番かっこいいと思ったし、今でもそう思っています。」と彼は言います。

オランダ人であることも、車いすテニスに挑戦する上でラッキーだったと言えます。1980年代に車いすテニスが世界的なスポーツになって以来、オランダは全国的に施設と質の高い指導を導入し、今年国際テニス殿堂入りが期待される素晴らしい選手であるエステル・フェルヘールを始め、次々とチャンピオンを輩出し、この種目を独占していました。

15歳の時、ニールスはたった2回目のITFトーナメントへの出場で、決勝で第1シードを破り、初の国際タイトルを獲得しました。イベント後、コーチのハンス・ユルゲン・ストリークは次のように話しました。「彼はとても運動神経がよくてダイナミックなプレーをしますが、コートの外ではとても大人しいんです。動きがよく、コート上では対抗心を燃やしていますが、プレーしていない時の彼は落ち着いています。ストリークはニールスのすべてのトーナメントに付き添っていたのではなく、初めの頃は、ニールスの母親と代わる代わる帯同していました。

目標設定、目標達成

ニールスの当初の目標は、東京パラリンピックに出ることでした。彼はそれを達成しただけでなく、シングルスで銅メダル、ダブルスでシュレーダーと組んで金メダルを獲得しました。次の目標は、クァードクラスの車いすランキングで上位に入ることでしたが、2022年末にはそれを達成しました。
 

また、彼はオランダのクァードプレーヤーとして初めてITF世界チャンピオンになったのです。シュレーダーとニールスがクァードテニスを独占していたため、2022年にオランダ人が受賞することは明らかでしたが、年末にダブルスのパートナーをわずか9ポイント上回ったニールスに、ITFは賞を与えました。

「私のキャリアにおいて初めて世界チャンピオンに選ばれ、本当に特別で素晴らしい気持ちです。これまでで最高の年になりました。 世界ランキング1位になり、グランドスラムの4大会すべてに出場し、1回目と2回目のグランドスラムで優勝し、ダブルスで3つのグランドスラムを制覇でき、いくつかの夢を叶えることができました。自分ひとりではここまで来ることはできなかったので、本当に周りのチーム、特にハンス・ユルゲンコーチには感謝しています。」とニールスは語ります。

全豪オープンのシングルス決勝前日、ニールスとシュレーダーは、全豪オープンのクァードダブルスのタイトルを獲得することにより、生涯ゴールデンスラム (4大大会制覇とオリンピックの金メダル) を達成しました。2022年の決勝でデビッド・ワグナーとアンディ・ラプソーンに敗れましたが、さらに上を行く、グランドスラムの4タイトルとパラリンピックの金メダルのすべてを手に入れたのです。
 

「サムと私が一緒に成し遂げたことに、とてもに満足しています。グランドスラムをすべてを制覇できたことをとても嬉しく思います。次は、1シーズンで4大大会すべてを制覇したいです。」と、ニールスは言います。そして、彼は2022年に獲得したローランギャロスと全米オープンに続くシングルタイトル、さらに、パラリンピックコレクションに加える金メダルも目指しているのです。そのために、彼は "nielsonwheels.com" という名でウェブサイトとファンディングページを立ち上げました。

全豪オープン決勝の後、今年の目標についてニールスは「こんな日をなくすことです」と答えています。強い意志を持つニールス・フィンクに、ファンたちはクァード車いす界をリードしていくことを期待しているでしょう。